モンゴル帝国はなぜ滅びたのか |
第1に考えられる原因は紙幣の乱発です。中国からヨーロッパに及ぶ大変広い地域を関税なしで商品を動かせたのですから、商業が活発になるのは自然でした。そのこと自体は良いことなのですが、当然通貨が沢山必要になります。しかし残念ながら銀が足りなくなってしまい、対応策として紙幣を発行するようにしたのです。帝国としての権威をバックに紙幣で代用しようとしたこと自体はこれも賢いことでしたが、調子に乗りすぎたようです。乱発状態になってしまったのですね。国が補償するといっても限度があります[注]。乱発によって紙幣の価値は下がる一方です。まるで現代での金本位制の放棄みたいなものです[注]。フローティングにしても、それが完全にコントロールされている間は良いのですが、モンゴルの場合は今言いましたように乱発常態だったのです。
この現象はローマの崩壊に共通していますね。ローマ帝国では銀貨の質をどんどん落としていったのです。「悪貨は良貨を駆逐する」を地で行ってしまったのです。
振り返って現代はいかがでしょうか。兌換紙幣は姿を消し、さらに今では姿の無い(ヴァーチャルな)お金がインターネットに乗って世界中を駆け回っています。便利な反面、信用を無くした途端に,経済はパニックに入ります。経済活動での紙幣の意味、ネットマネーが将来起こすであろう問題を十分予想しておくことが大切だと思います。歴史から学ぶべきことは沢山あるはずです。過去の、経済システムが幼稚な時代のことと切り捨てることは大きな過ちの元になるでしょう。
第2の原因は、後継者争いです。フビライが1294年に死ぬと、ご多聞に漏れずすさまじいばかりの後継者争いが起き、帝国は四分五列の状態に。
第3の原因は、14Cに入って各地で起きた民衆の反乱です。さしもの帝国も故郷のモンゴル高原に撤退を余儀なくされたのでした。反乱軍の一人が明帝国を興しました。
第2、第3の原因も歴史的に何度も繰り返し起ってきたことです。人類は少しも賢明になっていないなと改めて考えさせられます。
[注]現代風に言えば「兌換紙幣」で、国家が常に紙幣を金(モンゴル時代は銀)と交換することを保証している間は紙幣が立派に金銀の代わりを果たすことができますが、その保証が無くなれば悲惨な事態に陥ることは誰が考えても明らかです。
[注]現代世界では、20世紀初めの世界恐慌に伴って金本位制が崩壊しましたが、ドルだけは戦後も金本位制を続けていました。これがドルが世界の基軸通貨であり続けた理由だと思いますが、それも1971年のニクソンショックによって崩壊し、各国が変動相場制に移行したことはまだ記憶に新しいところです。その後世界の経済がどうなったかは皆さんよくご存知のとおりです。モンゴルの歴史から十分学んでいなかったということでしょうか。